今週、アプリ外課金を巡る議論は「理論」から「実証」の段階に移った。アップルは英国で、外部決済への誘導を認める新規則に異議を唱えた。同時に、規制や消費者への直接販売(DTC)の拡大がサービス事業の成長鈍化につながっていると初めて認めた。一方、日本、ブラジルでの代替アプリ流通も前進した。DTCの可能性が、具体的な事業判断を迫る現実的な選択肢になりつつある。

公正取引委員会、アップルとグーグルの初の順守報告書を公表

公正取引委員会は2026年7月27日、スマートフォンソフトウェア競争促進法に基づいて指定された事業者が提出した初の「順守報告書」を公表した。対象はApple Inc.、iTunes株式会社、Google LLCとなる。

報告書は2025年度のうち、同法が全面施行された2025年12月18日から2026年3月31日までを対象とする。今回が最初の報告期間となった。

公取委は、公表した報告書が指定事業者自身の見解を示すものであり、公取委の見解ではないと強調した。アプリ事業者との取引状況について広く情報を集めるため、情報・意見の受付窓口と違反情報の申告窓口も設けた。

国内報道によると、アプリ開発会社の団体や有識者からは、アップルとグーグルが示した新たな手数料体系について「実質的な改善が乏しい」との批判が出ている。

注目点

スマホソフトウェア競争促進法の施行により、日本のiOS市場では代替アプリストアと外部決済が既に認められている。今回の報告書は、今後、公取委が両社の対応を検証する際の基準となる。

手数料水準への批判が早い段階で表面化したことで、外部購入に伴う負担の妥当性が、アプリ市場における重要な論点として改めて示された。公取委は、指定事業者とアプリ事業者の取引実態や関係者の意見を把握するため、情報提供を受け付けている。アプリ事業者にとっては、手数料体系の透明性やDTCを活用する際の事業環境について、自らの実態や意見を伝える機会となる。

出典: 公正取引委員会朝日新聞

アップル、外部決済への誘導を認める英国案に反発

アップルは、英国の競争・市場庁(CMA)が実施した意見募集に正式な見解を提出した。アプリ開発会社が利用者を外部の決済手段に誘導できるようにする規制案について、「価格規制に相当する」と主張した。規制当局がアップルの事業運営に「極めて介入的」な役割を持つことになるとも訴えた。

CMA案では、開発会社が利用者を自社のオンラインストアやウェブサイトに案内できる。アップルが徴収する「誘導手数料」については、公正かつ合理的で、現在のApp Storeの手数料率を下回る水準にするよう求める。手数料引き下げによる利益は、開発会社または消費者に還元されることを想定する。

英国では現在、米国や欧州連合(EU)と異なり、開発会社が外部決済へのリンクを公式に提示することは認められていない。ただ、多くの事業者が迂回策を講じている。

CMAは2025年、アップルとグーグルを「戦略的市場地位」を持つ事業者に指定し、新たな規制権限を得た。

アップルによると、2025年にApp Storeを通じて英国で発生した取扱高は465億ポンドに達し、アップルが受け取った手数料はその3.5%未満という。AppleInsiderは、App Storeが同年、英国で600億ドルを超える取引を支えたとアップルが説明したと報じた。アップルは、規制変更によって価格が下がることを示す証拠はないとも主張する。

CMAは、手数料を直接決めるのではなく、公正性の原則を定めるものとして「価格規制」との見方を否定した。意見募集は7月下旬に終了し、最終判断を待つ段階にある。

注目点

今回の規制案は、英国でアプリ外収益化を広げるうえで、短期的に最も大きな影響を及ぼす可能性がある。現在は外部決済への公式な誘導が認められていないが、CMA案が実現すれば、英国のパブリッシャーもEUや米国と同様に、利用者をDTC型のウェブショップや外部決済に案内できるようになる。

もっとも、外部誘導には上限を設けた「公正かつ合理的」な手数料が課される可能性がある。アップルが強く反発しているため、決着まで長期化し、導入時期を巡る不透明感が続く公算も大きい。

出典: Reuters9to5MacAppleInsiderMobilegamer.biz

アップル、規制変更がサービス事業の成長を押し下げ始めたと説明

アップルのケバン・パレク最高財務責任者(CFO)は7月30日の決算説明会で、App Storeの事業モデルを巡る規制変更がサービス事業の成長に影響し始めていると説明した。

2026年9月期第3四半期のサービス売上高は307億ドルとなり、同四半期として過去最高を更新した。前年同期比では12%増えたものの、前四半期の309億8000万ドルから減少した。前四半期を下回るのは2022年以来で、増収率は2025年9月期第2四半期以来の低さとなった。

パレク氏はApp Storeの業績を押し下げた要因として、モバイルゲーム市場の逆風、一部の国におけるApp Storeの事業モデル変更、外部リンクを通じた取引を巡る米裁判所の判断への対応を挙げた。米連邦最高裁判所がアップルの上訴を審理することを歓迎するとも述べた。

一方、App Storeの売上高は4~6月期として過去最高を記録した。前年同期には映画「F1/エフワン」の公開による押し上げ効果があり、単純比較が難しいとも説明した。

アップルは日本、ブラジル、EUで代替アプリ流通や外部決済を認める対応を迫られている。米国ではEpic Gamesとの訴訟が続く間、外部リンク経由の購入に手数料を課すことを暫定的に禁じられている。

注目点

アップルがアプリ外決済や規制変更をサービス事業の成長鈍化に結びつけて説明したのは初めてとなる。DTCや外部リンクへの移行によって、実際に収益がプラットフォーム外へ流れ始めたことを示す材料となった。

パブリッシャーにとっては、アプリ外販売が無視できない規模に達したとの見方を強める内容となる。米連邦最高裁判所が外部購入への手数料をどう判断するかは、今後の収益構造を左右する可能性がある。

出典: 9to5Mac

「フォートナイト」、ブラジルのiPhoneに復帰 独自ストアでは還元も

Epic Gamesは2026年7月30日、ブラジルのiPhone向けに「Epic Games Store」の提供を始めた。「フォートナイト」と「Rocket League Sideswipe」も再び利用できるようになった。

Epic Games Storeを通じてフォートナイトの商品を購入した利用者には、購入額の20%を「Epic Rewards」として還元する。Epicは、ブラジルのApp Storeではアップルの規則により、同様の還元を提供できないと説明している。

Epicは、代替アプリストアを導入するまでに複数の操作が必要となる点も批判した。アップルが反競争的な手数料を課し、利用者の不安をあおる警告画面によって導入手続きを煩雑にしていると主張する。iPadで代替ストアを認めていないことも問題視した。

同社によると、日本でも同様の対応がみられる。こうした要件が競争的なiOS市場の形成を妨げているとして、ブラジルの競争当局にも見解を伝えた。

注目点

ブラジルでも、代替アプリストアと独自価格を組み合わせることで、App Storeの手数料分を利用者に還元する事例が生まれた。アップルの課金基盤を使わない販売の方が安くなることを、具体的に示す例となる。

一方、Epicが指摘する複雑な導入手続きや警告画面は、アプリ外販売への移行率を押し下げる要因となる。新たに市場が開放された国でDTCの利用拡大を予測する際には、こうした操作上の負担も重要な判断材料となる。

出典: Epic Games Store公式発表9to5Mac

まとめ

今週の動きから、アプリ外販売が制度上の可能性にとどまらず、プラットフォームの収益や価格戦略に影響する現実的な選択肢になりつつあることが鮮明になった。英国、日本、ブラジルでは規制当局が市場開放を進め、決済サービスの導入も大規模な開発案件から管理画面上の設定へと簡素化されている。アップル自身の業績説明からも、収益がプラットフォーム外へ移り始めたことが確認できる。

もはや焦点は、アプリ外販売が成立するかどうかではない。プラットフォーム事業者が外部購入にどの程度の手数料を課せるのか、導入時の煩雑さが利用者の移行率をどこまで下げるのかが主な論点となる。

パブリッシャーはDTCを世界一律ではなく、市場ごとに判断する必要がある。英国CMAによる外部誘導規制の最終判断と、米連邦最高裁判所におけるアップルの訴訟に注目しつつ、各国の決済手段に対応した円滑な購入体験が、アプリストアの手数料負担を上回る効果を生むか検証することが重要となる。

MoRの観点では、税務、不正対策、法令順守、各国固有の決済手段への対応を一括して処理できる運用基盤が、市場開放を実際の売上につなげる鍵を握る。