今週は、規制と市場の双方から、アプリ外決済への流れを後押しする動きが相次いだ。EUはGoogleに対し、デジタル市場法(DMA)に基づく初の制裁金を科し、外部誘導に関する手数料と制限を直接の対象とした。一方、MTGの動きは、パブリッシャーがすでにアプリストア外へ収益を移し始めている現実を示している。
同時に、米国による通商調査やGoogle Playの配信制度変更も浮上した。アプリ外決済の権利が、どのように、どの程度の速度で安定した制度となるのかを見極めるうえで、情勢は一段と複雑さを増している。
EU、Googleに8億9,000万ユーロのDMA制裁――外部誘導制限と自社優遇を問題視
欧州委員会は、Googleの競争法上の問題行為を巡り、同社に8億9,000万ユーロ、約10億1,000万ドルの制裁金を科した。内訳は、自社サービスの優遇に対する4億6,000万ユーロ、外部誘導制限に関する4億3,000万ユーロとなる。
欧州委員会は、Googleが外部誘導に関連して課していた手数料の水準や課金期間が、DMAの遵守に必要な範囲を超えていたと判断した。
是正措置として、Googleは第三者サービスを公正かつ差別なく扱う必要がある。また、開発者がPlay Storeの外で利用者に自由に情報を伝え、オファーを提示し、契約を締結できるようにすることも求められる。
Googleには60日間の是正期間が与えられた。遵守しない場合、全世界売上高の最大5%に相当する定期的な制裁金が科される可能性がある。AppleInsiderは、GoogleがDMAに基づき制裁金を科されたのは今回が初めてであり、同社が対応に向けた変更のテストを始めていると報じている。
注目点
欧州委員会は単にGoogleへ制裁金を科しただけではない。外部誘導制限の撤廃を命じるとともに、外部誘導手数料そのものの経済合理性にも踏み込んだ。これは、DTCへの誘導時に利益率を圧迫するまさにその負担を問題視する動きとなる。
パブリッシャーやMoR事業者にとっては、EUの利用者をウェブチェックアウトへ誘導し、アプリ内でより安価な外部オファーを訴求する法的基盤が一段と強まる。
出典: Mobilegamer.biz、AppleInsider、European Commission press release IP/26/1670
MTG、第2四半期売上の38%が自社D2Cストア経由に
MTGは第2四半期決算で、7四半期連続の増収を発表した。成長を支えたのは、『Raid: Shadow Legends』、カジュアルゲーム部門のPlaySimple、そして拡大するD2C収益となる。
注目すべき指標は、グループ売上の38%がAppleやGoogleではなく、MTGの自社D2Cストア経由で生まれている点にある。前年同期の24%から大きく上昇した。ミッドコア領域では、この比率が51%に達している。
第2四半期のグループ売上高は3億600万ドル、スウェーデンクローナでは29億6,500万クローナとなった。調整後EBITDAは7,300万ドル、同7億700万クローナで、マージンは24%となる。
『Raid: Shadow Legends』の売上は前年同期比9%増の1億1,100万ドルとなった。PlaySimpleの売上は同29%増となり、『Crossword Go』『Cryptogram』『Tile Match』が主な成長要因となっている。
注目点
MTGの実績は、大手パブリッシャーが売上の3分の1以上をアプリストア外へ移行できることを示す、監査済みの具体的な事例となる。ミッドコア領域では、売上の過半がすでにD2C経由となっている点も重要となる。
ウェブショップへの移行がどこまで現実的に進められるのかを検討するパブリッシャーにとって、有用な公開ベンチマークとなる。
出典: Mobilegamer.biz
トランプ氏、EUのDMA制裁を巡り通商法301条調査へ
トランプ氏は7月24日、Truth Social上で、EUがApple、Google、Metaなどのテクノロジー企業に科した制裁金について、政権として調査を行う方針を示した。EUの行為を「違法かつ極めて非倫理的」と批判し、制裁の撤回と「相当規模の関税」の導入を目指す考えを表明した。
AppleInsiderは、7月23日の欧州委員会によるGoogleへの8億9,000万ユーロの制裁を受け、1974年通商法301条に基づく正式な通商調査が開始されたと位置づけている。
ただし、米国の調査によって欧州委員会の判断が覆るわけではない。EU法に基づく制裁金が消えることもない。AppleやGoogleが争う場合は、欧州の法制度に基づいて別途不服申し立てを行う必要がある。
この動きに先立ち、7月21日には、下院通商小委員会のメンバー7人を含む共和党議員25人が署名した書簡が提出されている。Reutersが確認した同書簡では、EUが米国企業に対し「経済的搾取と規制による強制」を行っていると非難している。
注目点
DMAは、EUにおけるアプリ外決済を開く原動力となっている。米国による通商摩擦の拡大は、政治リスクとして意識すべき材料となる。
今回の調査がGoogleへの制裁金を直接取り消すことはない。ただし、圧力が続けば、欧州委員会が外部誘導に関する是正措置をどこまで強く執行するのか、またパブリッシャーがEUで安定した外部決済の権利をどれだけ早く得られるのかに影響を及ぼす可能性がある。
出典: MacRumors、AppleInsider、AppleInsider
Google Play、米国で第三者アプリストア向けに開発者カタログを開放
Googleは7月15日に発表し、2026年7月22日から、米国のアプリおよびゲームの掲載情報を第三者の米国Androidアプリストアに提供し始めた。対象には、アプリ名、アイコン、説明文、スクリーンショット、動画が含まれる。米国の裁判所命令に対応する措置となる。
第三者の米国アプリストアは、これらのアプリを利用者に提示できる。ただし、ダウンロードは引き続きGoogle Playを通じて完了し、通常のPlay経由ダウンロードと同じ条件が適用される。Google Playのサービス手数料も引き続き発生する。
開発者はPlay ConsoleのCatalog Settingsから、掲載情報の提供を拒否することができる。Mobilegamerの報道も、Google Playが第三者アプリストアをネイティブに配信する方向へ動いていることを裏づけている。
注目点
これは主に配信面の変更であり、決済面の変更ではない。Googleのサービス手数料は引き続き適用されるため、それ自体が手数料回避の手段になるわけではない。
ただし、最大級のAndroid配信面で第三者ストアがより自然に露出できるようになることは、将来的に代替ストアとアプリ外決済を組み合わせる余地を広げる。パブリッシャーにとっては、新たな棚を確保する動きとして注目に値する。
出典: Google Play Console Help、Engadget
まとめ
今週の流れは明確となる。規制当局は外部誘導の経済条件に踏み込み、MTGのようなパブリッシャーは、売上の3分の1以上を実際にアプリストア外へ移せることを示している。
一方で、米国の通商調査や、手数料が残るGoogle Playの配信制度変更は、法的権利と実際の手数料負担の軽減が必ずしも同時に進むわけではないことを示す材料となる。
アプリ外収益化を進めるパブリッシャーにとって、実務上の優先事項ははっきりしている。まずはEUにおける外部決済の導線を確保し、安定的に運用できる体制を整えることが重要となる。同時に、配信面の開放やMoRとの関係についても慎重に見極める必要がある。プレイヤーとの関係を自社で持ち、その距離を最も近く保てるインフラを選ぶことが、DTC戦略の成否を左右する。
