今週は、大西洋の両岸でアプリ外決済を巡る重要な法的節目が相次いだ。欧州では、デジタル市場法(DMA)を巡る初の本格的な司法判断で欧州委員会の立場が支持された。一方、米国ではAppleが、最高裁審理を前に外部リンク手数料を巡るEpic Games訴訟の差し戻し審を停止するよう求めた。
こうした法廷での動きに加え、新たな調査ではD2C市場の規模が170億ドルに達するとの試算も示された。ただ、多くのパブリッシャーは、D2C戦略をまだ実務レベルに落とし込めていないと認識している。
EU一般裁判所、App StoreとiOSの「ゲートキーパー」指定を支持
欧州連合(EU)一般裁判所は2026年7月8日、Appleがデジタル市場法(DMA)に基づく「ゲートキーパー」指定の取り消しを求めた訴えを退けた。対象となったのは、併合審理されたT-1079/23、T-1080/23、T-214/24の3件で、裁判所はいずれの主張も認めなかった。
裁判所は、欧州委員会がApp StoreとiOSを「中核プラットフォームサービス」として扱う権限を有すると確認した。Appleは、iPhone、iPad、Mac、Apple TV、Apple Watch向けにそれぞれ異なる小規模なApp Storeを運営していると主張したが、裁判所は、これらのストアはいずれも「アプリ開発者とエンドユーザーを結びつける」という同一の目的を持つとして退けた。
メッセージングサービスを巡っては、欧州委員会が2024年2月にiMessageを正式なゲートキーパー指定の対象としない判断を示していたため、Appleによる異議申し立ては不適法とされた。
Appleの広報担当者は、DMAの要求は「合法性と比例性の範囲を超えている」と述べている。Appleは今後、法律上の論点に限り、欧州司法裁判所(CJEU)へ上訴することができる。
注目点
今回の判断は、DMAを巡る初の主要な司法判断となる。サイドローディング、代替アプリストア、外部決済やウェブ決済への誘導を認めるEUの制度的基盤が、裁判所によって確認された意味は大きい。
ゲートキーパー規制の枠組みは維持され、EUは引き続き、DTCやアプリ外チャージ戦略にとって最も有利な大規模市場の一つとなる。ただし、CJEUへの上訴余地が残るため、制度の安定性は高まったものの、最終確定には至っていない。
出典: JURIST — EU一般裁判所、DMAに基づくAppleのゲートキーパー指定を支持、9to5Mac — Appleが欧州で主要な反トラスト訴訟に敗訴、「ゲートキーパー」のまま、AppleInsider — 欧州、App StoreとiMessageを規制から外そうとするAppleの試みを退ける
Apple、米国の外部リンク手数料を巡る差し戻し審の停止を要請
Appleは2026年7月7日、米連邦最高裁による審理が行われる間、Epic Games訴訟の差し戻し審を停止するよう、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に申し立てた。
最高裁は前月末、Appleが2021年の差し止め命令に違反し、民事上の法廷侮辱にあたるかどうかについて審理することを決めている。同命令は、開発者がApp Store外の決済手段へ利用者を誘導できるようAppleに求める内容となっている。
命令の発効後、Appleは外部購入リンクを認めた一方、その取引に27%の手数料を課した。イボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は、この手数料とリンク表示に関するAppleの制限が差し止め命令に違反すると判断し、同社を法廷侮辱と認定した。
現在の差し戻し審では、外部リンク経由の購入に対し、Appleが手数料を課せるのか、課せる場合はどの程度の料率が妥当なのかが争点となっている。Appleは、最高裁が法廷侮辱の認定を覆せば、差し戻し審の法的前提が失われるとして、審理を一時停止すべきと主張している。
Epic Gamesの意見書提出期限は7月10日、Appleの反論期限は7月13日となっている。審理停止が認められなければ、Appleは24時間以内に外部リンク手数料の案を提出する必要がある。
なお、最高裁は、これまでの判断の効力をEpic Gamesのみに限定し、米国の全開発者には適用しないよう求めたAppleの申し立てを退けている。
注目点
この訴訟は、米国で外部リンク経由の購入に手数料を課さないという先例を形づくった案件となる。ウェブショップやDTCへの誘導を、App Store最大市場で現実的な選択肢にした仕組みでもある。
ただし、審理停止の申し立てと最高裁での審理により、法廷侮辱の認定が縮小または取り消される可能性が再び浮上している。米国におけるアプリ外決済の採算は、再び不透明感を帯びつつある。
一方で、救済の対象をEpic Gamesのみに限定しない判断が維持されたことは、幅広い開発者にとって前向きな材料となる。
出典: 9to5Mac — Apple、最高裁の審理中にEpic Games訴訟の停止を判事に要請
モバイルゲームのD2C市場は170億ドル規模に、対応はなお途上
新たな調査によると、モバイルゲームにおけるD2C収益は約170億ドルに達し、世界のモバイルアプリ内課金市場1,133億ドルの約15%を占める。
この数値は、GDC Festival of GamingとAppchargeによる調査に基づく。調査は2026年1〜2月に1,200人超の開発者を対象に実施され、主要分析は281人の回答をもとにまとめられた。
D2Cの導入は、まだ初期段階にあり、進捗にもばらつきがある。パブリッシャーの92%は、今年D2C収益が伸びると見込んでいる。一方で、62%は自社が同業他社に遅れていると認識している。自社をイノベーターと位置づける回答は14%にとどまり、D2C施策が拡大段階または成熟段階にあると答えた企業も25%に限られた。
注目すべき点として、2025年4月のEpic対Apple判決後の政策変更にもかかわらず、52%の企業は大きな戦略変更を行っていないと回答している。
先行してD2Cに取り組む企業では、売上の中央値が35%増加した。業界全体の中央値である15%を大きく上回る水準となる。
AppchargeのCEOは、D2Cの本質的な利点について、手数料削減ではなく顧客接点の所有にあると説明している。パブリッシャーがプレイヤーとの関係を自ら持つことこそが、最大の変化となるとの見方を示した。(注:基礎となるレポートの日付は2026年6月24日。PocketGamerによる7月9日の記事で改めて注目されたが、同記事のURLにはアクセスできなかったため、数値は先行するレポートページで確認されたものとなる。)
注目点
今回の調査は、アプリ外決済の市場機会を示すうえで、これまでで最も明確なデータの一つとなる。DTCはすでにモバイルアプリ内課金の約15%を占め、成長も続いている。
また、パブリッシャーが重視する構造的な利点は、手数料回避だけではない。ファーストパーティーデータの取得や、プレイヤーとの直接的な関係構築が大きな価値として認識されている。
一方で、多くの企業はD2Cの必要性を理解しながらも、ウェブショップの構築や運用体制の整備には踏み切れていない。戦略認識と実行の間には、なお大きな隔たりがある。
出典: PocketGamer.biz — レポート:モバイルゲームのD2C収益が170億ドルに、パブリッシャーはアプリストアの先へ、Appcharge / GDC Festival of Gaming 調査(BusinessWire経由で発表)
まとめ
規制環境は、欧米で異なる方向に動き始めている。EUでは、DMAの制度基盤が司法判断によって確認され、外部決済やウェブ決済への誘導にとって安定した環境が整いつつある。一方、米国では、外部リンク手数料を巡る問題が最高裁判断まで再び流動的な局面に入った。
パブリッシャーにとっては、EUをDTC戦略の実証市場として位置づける一方、米国では外部リンク経由の採算前提を柔軟に保つことが重要となる。
D2Cはすでに170億ドル規模のチャネルに成長している。しかし、多くのパブリッシャーはなお本格参入に踏み切れていない。ウェブショップの立ち上げ、税務対応、コンプライアンス、越境決済といった実務面の負担が、戦略を実行に移すうえでの障壁となっている。
この摩擦を取り除くうえで、Merchant of Record(MoR)パートナーの役割は一段と重要になる。構想段階にとどまるDTC戦略を、実際の収益チャネルへ転換するための実務基盤として、MoRの価値が改めて問われている。
