米国では、アプリ外決済の採算を左右する訴訟の舞台が連邦最高裁に移った。一方、英国では、外部決済への誘導やNFC(近距離無線通信)の開放を巡る新たな規制議論が始まった。

欧米ではいま、アプリ外決済を巡るルールが、司法判断と規制当局の協議を通じて大きく変わろうとしている。コンテンツ事業者にとっては、当面の事業環境を左右する手続き上の判断から目が離せない状況だ。

米最高裁、AppleのApp Store制裁を巡る上告を受理

米連邦最高裁は6月30日、Appleが2021年の「Epic Games対Apple」訴訟における差し止め命令に適切に従わなかったとして、法廷侮辱に問われた問題について、Appleの上告を受理した。

2021年の命令を受け、Appleはアプリ内から外部の決済手段へ誘導するリンクを認めた。ただし、外部リンク経由の購入にも12~27%の手数料を課した。通常のApp Store手数料は15~30%であり、決済代行会社への手数料も加わるため、開発者側の費用削減効果は限られていた。このため、外部リンク方式の採用は広がらなかった。

カリフォルニア州北部地区連邦地裁のイボンヌ・ゴンザレス・ロジャース判事は2025年4月、Appleが意図的に命令に違反したと認定。米国内の外部リンク決済に手数料を課すことを禁じた。第9巡回区連邦控訴裁判所もこの判断を支持している。

Appleは、当初の命令は外部リンク経由の購入に対する手数料を禁じていないと主張する。命令の「趣旨」に基づいて法廷侮辱を認定することは、司法権の乱用につながりかねないとも訴えている。差し止め命令の適用対象をEpic Gamesに限定するよう求めたが、最高裁はこの申し立てを退けた。

審理は2026年10月に始まる開廷期に行われる見通しだ。

注目点

今回の訴訟は、米国におけるウェブ直販(DTC)や外部リンク決済の収益性を大きく左右する。

現行制度では、外部リンク経由の購入にAppleの手数料がかからないため、Merchant of Record(MoR)を活用したアプリ外決済は高い経済合理性を持つ。最高裁が下級審の判断を覆せば、Appleが外部リンク手数料を再導入し、DTC事業の採算が悪化する可能性がある。

一方、下級審の判断が維持されれば、手数料を課さない現在の仕組みが、全米の開発者に適用されるルールとして定着する公算が大きい。

出典: 連邦最高裁、Epic Gamesとの App Store 訴訟でAppleの上告を審理へ — MacRumors連邦最高裁、Epic Games訴訟でAppleの上告を受理 — PYMNTS.com

Apple、最高裁判断まで地裁審理の停止を要請

Appleは最高裁が上告を受理したことを受け、カリフォルニア州北部地区連邦地裁に対し、差し戻し審の手続きを停止するよう申し立てた。

差し戻し審では、外部リンク経由の購入について、Appleが手数料を課すことができるか、課す場合はどの程度の料率が妥当かをゴンザレス・ロジャース判事が判断する。

Appleは、差し戻し審の前提となっているのは、第9巡回区連邦控訴裁判所が支持した法廷侮辱の認定だと主張する。最高裁がこの認定を覆すか無効とした場合、Appleの手数料率を審査する複雑な手続きは不要となるため、審理を続けることは不合理で不利益をもたらすとしている。

Epic Gamesの意見書の提出期限は7月10日、Appleの反論期限は同13日となっている。

地裁が停止を認めなければ、Appleは判断から24時間以内に外部リンク手数料の案を提出しなければならない。停止が認められた場合、最高裁が判断を示すまで手数料を巡る審理は凍結される。

注目点

米国市場で当面の焦点となるのは、Appleが外部リンク手数料を再導入できるか、また導入するとすればいつになるかだ。

審理停止が認められれば、最高裁の判断が出るまで、手数料のかからない現行制度が維持される。DTCやMoRを活用する事業者にとっては、有利な採算環境が続くことになる。

停止が認められなければ、Appleの新たな手数料案が数日以内に示される可能性がある。米国向けウェブストアの価格を検討する事業者は、7月10~13日の動きを注視する必要がある。

出典: Apple、最高裁の審理中はEpic Games訴訟の停止を判事に要請 — 9to5Mac(Marcus Mendes)

英競争当局、外部決済への誘導とNFC開放を提案

英国の競争・市場庁(CMA)は6月30日、デジタル市場・競争・消費者法に基づき、AppleとGoogleに新たな行動要件を課す案について意見募集を始めた。

柱となるのは、アプリ外の決済手段への誘導を制限する規則の撤廃だ。実現すれば、英国の開発者は利用者を外部の決済サービスへ案内し、アプリストアの手数料を回避できるようになる。

CMAは、外部決済への誘導に手数料を課す場合、コストと提供価値に基づく客観的な根拠が必要だとしている。手数料は現行のアプリストア手数料を下回る水準とし、削減分を消費者に還元するか、サービス改善に再投資することも求める。

CMAはこのほか、Appleに対し、iOS端末のNFC機能を外部の開発者に開放する案も検討している。第三者による非接触決済やデジタルウォレット、銀行口座間決済、ステーブルコインを使った決済などが対象となる。

意見募集の期限は、外部決済への誘導が7月28日、NFC開放が7月21日となっている。

Googleは6月24日、一定の制約の下で外部決済への誘導を認める一方、手数料体系を見直す新たなGoogle Playの規約を世界的に導入すると発表した。英国では6月30日に適用を始めており、CMAが内容を精査する。

注目点

外部決済への誘導が制度として認められ、手数料に上限や公正性の基準が設けられれば、英国ではDTC型のウェブストアや外部決済、アプリ内の代替ウォレットが普及する余地が広がる。

NFCの開放も実現すれば、MoRを活用したアプリ外決済には追い風となる。他国の規制当局が英国の制度を参考にする可能性もある。

出典: CMA、AppleとGoogleのモバイルプラットフォームに関する新要件を公募 — GOV.UK(競争・市場庁)

まとめ

アプリ外決済を巡るルールは現在、異なる二つの時間軸で動いている。

短期的には、7月10~13日に見込まれるEpic Games訴訟の審理停止を巡る判断が焦点となる。停止が認められるかどうかで、Appleが近く米国で外部リンク手数料を提示できるかが決まる。

中長期的には、10月以降の米最高裁での審理と、7月下旬に期限を迎える英国CMAの意見募集が市場の構造を左右する。

米国では現在、外部リンク決済にAppleの手数料がかからないことが事業計画上の前提となっている。ただ、この環境が今後も続く保証はない。一方、英国では外部決済や代替決済サービスの利用余地が広がりつつある。

MoRを活用する事業者には、外部リンク手数料が導入された場合にも対応できる柔軟な採算設計が求められる。同時に、代替決済の次の成長市場を見極めるうえで、英国における外部誘導とNFC開放の議論を継続的に追う必要がある。